2007年08月17日(金) 記事No.125
前回書いた作品の続きです。
ついでにタイトル決めました。
第1話-1-を読む
タイトル ・・・ カインドオブ

第1話『魔法研究部へようこそ!』

-2-


智也は、事態を把握しようと首をブンブンと回し、教室を見回した。
最初に気づいたことは、自分が立っている位置は教室の中央であり、それを囲むような形で十数名の生徒が立っているということだった。
そしてそのどの顔も、面倒くさそうにだらけている。
中にはすでにひそひそとおしゃべりを始めている人たちさえいた。
次に気づいたのは、どうも周りが突然現われたのではなく、智也自身が、その場所に移動したらしいということだった。
教室の後ろの壁には、大きなプレートが一枚あり、その周りが紙で出来たボンボンで囲まれていた。プレートには『魔法研究部へようこそ!』と大きく書かれていた。
先ほどまでいた教室には、絶対にこんなものはなかった。
細かいところを言うなら、壁や窓の汚れ、机の色合いを見る感じ、この教室は先ほどまでいた教室よりもなんとなく新しい感じがした。
そして智也が最後に気づいたのが――どうしてもっと早く気づかなかったのだろうか?――教室の教卓の前に、一人の大人の女性が立っているということだった。
そして智也は直感的に、この女性がこのわけの分からない状況を説明してくれると思い、安堵した。
「ようこそ。智也君。魔法研究部へ。私の名前は宮下 さなえ。北見高魔法研究部の顧問よ。あ、ちなみに、ばばくさい名前。なんて言ったらぶつから。」
その女性が、静かに言った。
「えっと、ここはどこで、オレは一体・・・?」
智也がそう言ったときには、周りの生徒達は、まるで自分達の役目はもう終わりだ。というように、そろそろと席についていた。
「ここは、北瓦市魔法研究部総合施設。『サラマンダー』の、北見高教室よ。」
智也の頭の上には、?がいっぱいだった。
(北瓦市ってのは、俺たちが住んでる市だよな・・・?で、ここが北見高教室?
もしかして、俺たちの学校以外の生徒もいんのか?)
「そういう事ね。」
智也はぎょっとした。
さなえは智也の心を読んだのだ。
「さて、順を追って説明するわ。
あなたが入った教室――さっきまでいた教室の事ね。あそこは、魔力のあるものしか見ることができないし、入ることもできないようになっているの。
そして、魔力のある、うちの――北見高の生徒は、自然とあそこに引き寄せられる。
つまり、あなたには魔法の素質があるの。今はまだ、下級魔法くらいしか使えないけれど、鍛えれば自由に魔法を使えるようになるわ。」
そこで一度話を切った彼女は、智也がまだ立ったままであることに気づき、「座りたかったら座ってもいいのよ?話は長くなるから。」と言った。
智也は近くのあいている席をひとつ選び、その席についた。
それを確認すると、さなえの方も話を再開した。
「魔力が芽生える時期は人によって個人差があるわ。中学生の間に芽生える子もいれば、高校の2年生まで芽生えない子もいる。
でも、大体その範囲ね。高校2年にもなって、魔力が芽生えていない子は、魔法使いとしての素質がない子ね。
といっても、魔法が使える人間なんて一握りよ。ほとんどの子は、魔力が芽生えないまま大人になる。
で、ここはその魔力が芽生えた子供達の、魔力の使い方なんかを教え、強化させるための部。」
智也の混乱した表情は、心を読まずとも読み取れるほどありありと出ていたが、あえてさなえは話を続けた。
「で、さっきも言ったように、魔法を使える生徒なんてほんの一握りしかいないから、ここみたいに亜空間に施設を作って、いろんな学校の魔法生徒がここにこれるようにして、時には共同で練習したりするの。」

なるほど・・・まだ多少混乱しているが、なんとなく分かってきた。
智也はそう思った。
本当に魔法が存在しているならば・・・だが。
「あんた、まだ魔法の存在を疑ってるの!?」
さなえが叫んだ。
智也は心を読まれることに、もう慣れっこだった。といっても、驚くことがなくなっただけで、逆に今度はうざったいという気持ちが出てきたが。
「というか、あたしがあんたの心を読んでる。これもひとつの魔法なんだけど・・・」
智也は、納得いかないという顔で、さなえを見つめた。
智也の中での魔法とは、自由に空を飛んだり、火を出したり水を出したり、する技の事だった。
相手の心が読めたくらいで・・・たしかに不思議だとは思うけど、それを魔法と言うなら、やっぱり入部したいほどのものではない。
「ちなみに、あんたをこの部屋に運んだのも魔法の力なんだけど・・・そうね。仕方ないわ。頑固なあんたに、属性系魔法でパフォーマンスしてあげるわよ。」
智也は気づいた。
彼女は顔は、明らかに仕方がない。というような顔ではなかった。
もっと、いいことを思いついた。というような楽しそうな表情だ。
それを見たとき、智也は胸に、何かいやな予感が走った。
さなえは、右手をまっすぐ、教室の天井の一角を向け、伸ばした。
智也からみると、ちょうどそこは斜め右後ろだ。
そして突然に、こう叫んだ。
「アイス!」
突如、彼女の手のひらから青白い光の閃光が走った。
光は智也の横を抜け、彼女が手を指した先に伸びていた。
一瞬で光は消える。
何が起こったのか知りたくて、智也は後ろを振り返った。
彼女が手を伸ばした先にはなんと、人の頭ほどの氷の塊ができていた。
(こ、これが魔法!?)
がやがやとおしゃべりをしていた生徒達も、同時にその氷の塊を見ていた。
氷の真下の席に座っていた生徒は、慌てて立ち上がり、席を離れた。
あんなのが落ちてきたらひとたまりもない。
しかし彼女の魔法はこれだけで終わらなかった。
智也が唖然となってその氷の塊を見ているうちに、もう一発、白い光が横を抜けた。
今度は反対側の天井の一角に、同じサイズの氷の塊ができていた。
先ほどと同じく、慌てたようにそこの下にいた生徒はどいた。
今度は、床だ。教室の後ろの床の二角に、先ほどの二つと同じサイズの氷の塊ができていた。
これで教室の後ろには、4つの氷の塊ができていた。
同じように、今度は教室の前方4隅に塊を作る。
氷ができるたびに、智也はあっちへこっちへと視線を向けた。
「さてっと。準備完了~!」
さなえはうれしそうにそう言った。さっきまでの退屈そうな説明口調とは明らかに違った。
おそらくこれが本来の彼女なんだろう。
「じゃ、最後の仕上げ行くわよー!ライトボール!」
さなえの右手の上には、拳ほどの光の球ができていた。
やたら明るい。
直視すると、少し目が痛かった。
それを、まるで野球の球を投げるようなモーションで――といってもそれよりはるかにゆっくりだが――智也の頭上めがけて投げた。
光は、さなえの手を離れ、まっすぐこっちに飛んでくる。
反射的に智也はかがんだが、あまり意味はなかったようだ。
智也の頭上にそれが来ると、クラス中から「おぉ!」と歓声があがった。
何が起こったのか、智也は立ち上がり、確認した。
まずは真上の光の球。
これはさんさんと輝き、やはり目が少し痛くなる以外に変わりはなかった。
次に教室の前方の、氷の塊を見た。
4隅にある氷のそのどれもが輝いている。
というか、かなりまぶしい。
(ん?氷がまぶしいって事は・・・・・・)
今度は、自分の腕を見た。
それが、みんなが歓声を上げてる理由だった。
腕だけではない。足も腰もお腹も、智也の全身が明るく輝いていた。
まるで、光に包まれるかのように。
ライトボールから発した光が、氷の塊により反射し、智也自身を光らせていたのだ。
「すげぇ!」
智也自身も、歓声を上げた。
「どう?これで分かったでしょ?ここじゃ、魔法が使えるの。ってちょっと待った!加減もわからずにそんな事したら・・・!?」
智也は、右手をさなえの若干右へと向けていた。
自分にもできるのか、試したくなったのだ。
「アイス!」
智也は叫んだ。
さなえは、さっと左へ飛びのいた。
が、それだけだ。
何も起きなかった。
「・・・・・・」
智也は一人、無性に虚しい気分になった。
きっと、でっかい氷の塊が出現するに違いないと確信してたからだ。
が、実際は氷の粒1つも現われなかった。
「・・・・・・」
さなえの方もどこかしらけた顔をしていた。
彼女の方も、何かしら起こると予想していたのだ。
「えー、あー。」
沈黙を破ったのはさなえの方だった。
「ま、まあ、これから練習していけば、自由に使えるようになるわ。」

これが、智也が魔法研究部に入った初日の、大まかな出来事であった。
その後、智也は魔法研究部に入ったことにより、さまざまな非現実的な出来事に遭遇するのだが、今の彼には、そんな事は知るよしもなかった・・・。
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